【インタビュー】「やさしいにほんごニュース」はどのように作られているのか?お話しを聞きました③(多言語放送局 特別版/河北新報 神田様ゲスト回)
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5週目に放送されている特別版では、仙台市の国際交流員(CIR)がゲストをお呼びし、日本語でインタビューをします。
2024年10月~12月にかけて放送された回では、
河北新報ニュースセンター副部長の 神田 一道 さんにインタビューをしました。
神田さんは河北新報の「やさしいにほんごニュース」を担当されています。
【河北新報 「やさしいにほんごニュース」】
新聞社が発信するやさしい日本語のニュースは、まだ全国でも珍しいです。
河北新報ではどうして「やさしいにほんごニュース」を始めたのでしょうか?
「やさしいにほんごニュース」を書く際の工夫は?
通常の新聞記事との違いや、嬉しい反響についてなど、たくさんお話ししていただきました。
♪音声ではこちらから聴くことができます♪
ブログでは3回に分けてインタビューの内容をお届けします。
今回は第3回目です!
難しい言葉を簡単な言葉に言い換えるなど、外国人などにとって分かりやすくした日本語のことです。
1995年に関西で阪神淡路大震災という大きな地震が起こり、その時、多くの外国人が大事な情報をもらえなくて困っていました。それをきっかけに、やさしい日本語はわかりやすくて早く災害情報を知らせるための方法として生まれました。現在、やさしい日本語は、外国人にとって分かりやすい会話や情報を届けるためのツールとして日々使われています。
その中で、仙台の新聞社、河北新報もやさしい日本語で情報を出しています。
【インタビュー】
聞き手:CIR イーライ、テシア
イーライ
ここまで聞いていて思ったのは、音声とかいろんな機能がつけられるのが、オンラインで公開する強みですよね。あとは、やっぱり前におっしゃったように、新聞はスペースに限界があるから簡潔にしないといけなくて、その結果硬い文調のイメージがあります。でもオンラインだったら長さがもっと許容されてるから自由に書けるというか…。
神田さん
そうですね。だからやさしい日本語の方が、元の原稿よりも大体長いんですね。もしかしたら元の原稿の倍ぐらいの長さになっているかもしれないです。インターネットなので行数は気にせず長々と書けます。でも、あんまり長く書くと先生から削られます。やっぱり適正な量というのはあるみたいで。音声で聞くと大体3分ぐらいになる量が良いようです。
イーライ
書き換えをするときは、初級の学習者もわかるような言葉にしようとしてるとおっしゃっていましたが、それはどのように判断しますか?基準みたいなものがあるんでしょうか。
神田さん
そうですね、前任の上田さんから、初級の日本語の単語リストみたいなものをもらったんですね。大体2000~3000語程度だったと思うんですが、そのリストを見ながら原稿を書き直しています。原稿を見た時に、書き直さなくてもいい部分も結構あります。8割から9割ぐらいは直さなくてもいいんです。でも、これは絶対に書き直さないといけないなという言葉に出会うことがあります。そうすると、その単語リストを見て、「リストに入っていないからこれは書き換えなきゃいけないな」と判断し、どのように直すか考えます。ここがやっぱりつまずく、時間のかかるところなんですよね。「なんて訳せばいいんだろう、これ以外言い換えようがないよな」というような文章もあります。色々辞書とかで調べます。言葉が変えられないときは、「校長先生(学校で1番上の人)」のように、言い替えないで括弧で説明する方法もあります。明らかに初級の人には難しいだろうという言葉は、経験を重ねるとなんとなく見えてくるので、単語リストを見ながらチェックしています。でもやっぱり見逃すことがあるので、鈴木先生から直ってくることも時々ありますね。
イーライ
やさしい日本語を1年ぐらい担当されて、お話しくださったように、今は「これ難しそう」みたいなことがすぐわかるようになってると思うのですが、最初の頃はどうでしたか。
神田さん
そうですね。最初のうちはなかなか難しく、わからなかった部分はあると思いますね。それは単語だけじゃなくて、原稿の文章の組み立て方が1番分かりにくいんです。新聞記事は、逆三角形のように、1番重要なニュースや新しいニュースを最初に書くんですね。そして古いニュースやすでに分かっていることは後に書きます。つまり、前提条件みたいなものは後に書くっていう文化があるんですね。けれど、やさしい日本語は前提条件を先に書かないと結論が見えてこないんですね。逆三角形ではなく普通の正三角形で、まず条件を書かなければならないです。でも、今まで20年以上ずっと、ポイントをまず書いて前提条件は後で書くという文章を勉強してきた人間なので、いきなりそれを反対にしろというのは難しかったです。最初は新聞記事のように書いちゃうわけです。そうすると、鈴木先生とかから、これはちょっとわかりにくいので、最初にまず前提条件を書いてくださいというようなことを言われて、そういうのを何回も繰り返していくと、「これは何なのかっていうことからまず書いてあげないと外国の人は理解できないんだろうな」ということが分かってきて、今に至ります。
なので、難しい言葉が何なのかというのを調べる難しさよりも、どういうような順番で原稿を書くのかっていう大変さの方が最初は非常に大きかったような思い出がありますね。それは今でも変わらないんですけど。
イーライ
面白いですね。やさしい日本語に書き換えるいうと、単純に言葉をやさしくするだけの作業だと思われがちだと思うんですが、やっぱり構成の段階で結構難しさがあるんですね。面白いです。
神田さん
そうですね。「やさしいにほんごニュース」では元の原稿も見られるんです。1回元の原稿を見てからやさしい日本語を見ると、全然違うというのがわかると思います。
私はこの作業をやることによって、文章を書くトレーニングをできるいい機会になったなという風にも思っています。新聞記事の書き方とは全く別の、違う書き方があるなと。
そして、新聞記事ではついていけないよという人って、日本人の中にもいっぱいいるんじゃないかと思うんですよね。例えば子供も、海水浴や海開き、あるいは東日本大震災の津波の影響と言われても、全くわからなくて「もう読むのやめた」という風になる可能性もありますよね。だから、そういう子供、あるいは東北にいない人とかは同じようなことを考えることもある。東日本大震災のことを知らないよという人もいるかもしれない。
なので、やっぱりインターネットの情報の発信の仕方を考えると、最初にそういう前提条件をまず伝えてあげるという情報の伝え方は大事なんじゃないかなという風に思ってます。
テシア
なんとなく教科書の構成と似ているなと思いました。小学校の教科書でも、 何にも知らない子供たちに教えるわけですから、いきなり難しい部分ではなく、まずは1番基本の部分から始まると思うので。
神田さん
そうですね。やさしい日本語に直す時には、国語の教科書のように、物語のようにだんだんと面白くなってって、読みたくなるようにしたいと思っています。起承転結という言葉のように、最後余韻に浸るような、そういう文章にがらっと書き直したりすることもあるんですね。新聞記事というのは 正しい情報を早く的確に読むわけですけども、やさしい日本語を読む人はそういう人たちばっかりではないですよね。だから、「読んでて面白かったな、じゃあ今日頑張ろう」とか、「いい原稿読んだな」「面白いことを知ったな」ということを感じてもらえればいいのかなと思います。
イーライ
確かにそうですね。第二言語で何かを読む時は、とにかく難しくて疲れてしまうから、それをできるだけ楽しくするっていうのはすごくいいと思いますね。
神田さん
ちなみに、やさしいにほんごニュースを読んでくれているということですが、どうですか?難しいですか?
イーライ
いや、すごくわかりやすいと思います。普通の新聞記事を読む時は、説明されない言葉がいっぱい出てきて、ブラウザを開いて検索することが結構あるんですが、そういう風にやさしい日本語の記事の中で丁寧して説明してくれることはすごくありがたいです。
神田さん
そうですか。じゃあ、ある程度調べなくてもいいような構成になってるっていうことですよね。
イーライ
調べる必要がない分、記事に没頭できるのがいいです。他のものを見ずに、1つの読みものとして楽しめるのをすごく感じますね。
神田さん
テシアさんはどうですか。
テシア
私もイーライさんと同じ意見で、調べなくてもわかるような内容っていうのはすごいなと思いました。
やはり、普通の、一般の日本語で書かれている記事を読むと、日本語自体がわかっていても、 日本社会に関する理解できていない部分とかはあります。「この人は誰だ」「これはどういう政策なのか」などをそもそも知らなくて、言葉の意味はわかるんだけれども、内容は8割しかわからなかったっていうことがよくあったので、やさしいにほんごニュースは自分の中で足りていなかった情報を補足してくれるのがすごくありがたいです。
神田さん
そうですね。もしかすると、私が今やってる作業もAIで同じようなことができるのかもしれないんですよね。けれど、「これぐらいはわかるかな」とか「これはもっと噛み砕いて教えた方がいいんじゃないかな」という部分が、今のAI技術でまだ十分にできるかどうかわからないです。まだAIよりも人間がやった方がいいんじゃないのかなと思ってるんですね。また、私が原稿を書いて、鈴木先生が直した原稿を載せてると言いましたが、「だったら鈴木先生に書いてもらえばいいんじゃないか」と思うかもしれません。ですが、そうではないという風に思っているんですね。
新聞記者が取材をして記事を書いていて、記事には「これを読んでほしい」という思いや「これを皆さん知ってね」っていう気持ちが込められています。そう考えると、まずは新聞記者が手直ししたほうが良いのではと鈴木先生も考えています。そして、やさしい日本語にするときも、記者が「外国の人がどういう風に思っているのかな」ということを常に思いながらやるのが大事なのかなと思ってますね。
イーライ
確かに、根本的なレベルで読者に寄り添う必要がある中で、やさしい日本語の記事を作るような試みに関わる記者が増えるといいなと思います。
神田さん
そうですね、今のところ私しかやっていなくて、その前は上田さん1人しかやってなかったのですが、もうちょっといろんな人が関われるようになればいいなと思います。今は2週間に1回の更新で、これでも結構大変なんですが、1週間に1回とか毎日とか出せるようになると、もっといいのかなと考えています。そのためには、みんなが同じような考え方をして、鈴木先生の考え方とも一致しながらやっていくという作業が必要なので、まだ時間はかかるのかなと思いますけど。
テシア
今後、河北新報社さんが「やさしいにほんごニュース」を拡大するような予定はありますか?
神田さん
まだそこまでは考えられていないです。ただ、今お話ししたように、AIがもうちょっと賢くなって、新聞記者が今やっているのと同じぐらいのレベルで書き直しができるようになれば、もしかしたら更新頻度を上げることが可能になるかなと思います。
テシア
楽しみにしてます。
イーライ
では、時間となりましたので、そろそろ終わりにしたいと思います。神田さん、改めてありがとうございました。
神田さん
どうもありがとうございました。
イーライ
最後に、皆さんにお伝えしたいとことがあれば、ぜひ。
神田さん
河北新報オンラインでやさしい日本語ニュースを2週間に1回更新しています。ぜひ楽しみに読んでもらえればと思います。よろしくお願いします。
イーライ
すごく読みやすくて面白い記事ばかりなので、皆さん、ぜひぜひ読んでみてください。
https://kahoku.news/easyjapanese/